楽園の地獄
南の島が好きで 、グアムやサイパンには何度も行った。
もちろん、かつてそこが戦場であったことも知っていた。
初めて仕事でグアムに行ったとき(1986年)には
母親に「グアムと聞くと今でもゾッとする」と言われた。
「もう戦後何十年もたっているのに」と、思ったけど。
サイパンに初めて仕事で行ったのは去年のことだ。
家族で遊びに行ったときにはビーチでのんびりしたけど、
島内の見どころを紹介するためにレンタカーを借りた。
島内各地に残る戦車の残骸とかを撮ってまわり、
スーサイドクリフやバンザイクリフも初めて訪ねた。
気持ちのよいドライブのあと着いたスーサイドクリフは、
想像以上の、足がすくむような断崖絶壁だった。
「ここからみんなで身を投げたのかよ」と、ゾッとした。
崖の上にも下にも多くの慰霊碑が立っていた。
碑のひとつには「サイパン高等女学校」と刻まれていた。
唐突に強い怒りがこみあげてきて、吐きそうになった。
誰もが、楽園のような海と空に歓声をあげたことだろう。
今と変わらない、恋をしたりおしゃれもしたい女の子たち。
なのに空襲とか艦砲射撃とかにさらされて、
かろうじて生き残ったあとで、ここで自殺に追い込まれた。
「生きて虜囚の辱を受けず」とか言う馬鹿どものせいで、
こんなところから飛び降りさせられた。
もっともらしく「尊い犠牲」とかいうヤツにも、
「ざけんなよ」と思う。
馬鹿のせいで犠牲になるのは尊いことではない。
「非常時だから批判するな」とか言っていると、
最後はこういう悲惨なことになる。
それでは、亡くなった人たちにも申し訳ない。
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