玉虫型飛行器が飛んでいないと思う理由
二宮忠八さんの玉虫型飛行器模型は飛んでいないのでは?
という「かぜたん」記事に対して、いくつものメールをいただいた。
ありがとうございます。
いずれも讃岐ウイングスラジコンクラブとRC飛行機実験工房の
ラジコンの玉虫型飛行器の存在を指摘していただいたものだ。
あらためてこれらのラジコン機は、本当にすごいなあと思う。
ただし二宮さんの玉虫型飛行器が飛んだという話ではないし
二宮さんの設計に忠実に再現して飛ばしたものでもなかった。
もし二宮さんの設計通りに作ったら、飛べなかっただろう。
そう考える理由を、あらためてちゃんと説明する。
<八幡浜市の市民図書館に現存する二宮忠八さん製作の模型>
※特別に許可をいただいて見学と、撮影までさせていただいた。
二宮さんの玉虫型飛行器は無尾翼機である。
普通の飛行機は水平尾翼で縦(ピッチ)安定を保っているが
無尾翼機の場合は何か別の工夫が必要になる。
まずひとつの方法は空力中心まわりのモーメント係数(Cmo)が
プラスになる翼型を選び、重心を前の方に置いてやるということ。
Cmoがプラスの翼型には迎角の変化を戻そうとする性質がある。
たとえば機首が上れば、それを下げようという空気力を発生する。
それで縦の安定性が確保される。
ところが一般に使われている翼型はほとんどCmoがマイナスだ。
Cmoがプラスになるのは後部に逆キャンバーがついているような、
つまり中心線がS字カーブを描くような特殊な翼型が多い。
<NASMに展示されている無尾翼機ホルテンHoⅢhの中央部>
※後半部分に逆キャンバーがついているように見える。
もうひとつの方法は翼に後退角をつけ、
翼端の迎え角を小さく、つまりねじり下げをつけてやるということ。
するとCmoマイナスの翼型でも、翼全体ではCmoプラスにできる。
実際の無尾翼機のほとんどはこの方法を主に使っている。
ところが二宮さんのオリジナルの玉虫型飛行器の模型には、
こうした工夫があるようには見えない。
それに対して新しく作られたレプリカのRC玉虫型飛行器には、
反転キャンバーも後退角もねじり下げも新たに加えられている。
だからちゃんと飛ぶことができるようになったし、
それらの工夫のない二宮さんのオリジナルはたぶん飛べない。
二宮さんが、無尾翼機の理論を思いついていた可能性はある。
だがそうした記録はないし、模型や図面にも反映されていない。
もし記録に残していたならばそれはすごいことだったろう。
「初めてのゴム動力プロペラ推進の模型飛行機」などという
トンチンカンな誤解で評価されることもなかったはずだ。
「無尾翼機の父」として、堂々と世界にアピールできる。
しかし、おそらく二宮さんは無尾翼機の理論を理解していなかった。
でなければ、あのような非合理的な下翼式操縦翼面など考えまい。
そういえばRC玉虫型飛行器は、操縦方法もオリジナルとは違った。
エレボン(エルロンとエレベーターの機能を持つ)を備えたのだ。
もちろん二宮さんが想定していた下翼作動の操縦方法では、
なんとしても機体をコントロールできなかったための苦肉の策だ。
まあ縦安定さえとれていれば、エンジンのパワーオンとオフで
まっすぐに飛んで降りるくらいのことはできたかもしれない。
だが、なにしろ縦安定が確保されていたとは思えないから
地面からまともに浮き上がることすらできなかったのではないか。
何度も書くが、僕は二宮さんの業績を高く評価している。
だが誤った内容で見当外れの称賛をするのはむしろ失礼である。
独自に航空を研究し、模型飛行機(カラス型飛行器)を飛ばし
有人飛行をめざして努力し、
後には航空神社を作って航空の安全を祈願した。
それだけでも、十分に素晴らしいことではないか。
どうして、いちいちライト兄弟と張り合わせなければならないのか。
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