フライパンは洗わない
物事は合理的に考えたい。
だから、
「フライパンをいちいち洗う必要はない」と思った。
大学を卒業して、一人暮らしを始めた頃、
もう20年以上も前だけど。
鉄のフライパンは、使ったら洗って、乾かして、油を塗っておかないと錆びる。面倒だ。
しかし食用油は腐らない(はずだ)。
だって、揚げ物をしたあとの油を保管して再使用する人もいるじゃない。ならば野菜イタメのあと、フライパンはそのままにしておけばいい。うまくいけば次に使うときに、改めて油をひく必要もない。
顔をしかめる人もいるだろう。
僕だってまるで抵抗を感じなかったわけではない。
しかし「合理的に考える」と、これは正しいように思えた。
正しいことは勇気をもって実行しなければならない。
そして、腹の具合が悪くなった。勇気の代償。
その日は、某科学雑誌の編集部で仕事。
心配する編集者に、僕は青い顔で事情を説明した。
「アホか」と笑われたが、負けずに「油は腐らないのではないか」と持論を展開した。しかし相手も科学編集者だ。屁理屈では負けない。
「油は腐らなくても、そこに残った食材のカスは腐る」
なるほど、それも合理的だ。
しばらく寝込んだ。
実際には食用油も酸化して、これを一般には「腐る」というらしい。
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