神に祈ってどうする
たとえすべてのエンジンが停まってしまっても、
飛行機はただちに墜落してしまうわけではない。
性能の悪いグライダーくらいには滑空して、たぶん着陸もできる。
そんな訓練は、パイロットなら誰でもうんざりするほど受けている。
ジェット旅客機の場合は全エンジン停止は通常訓練の想定外だが
それでもシミュレーターでの体験的な訓練は行われている。
<両エンジン停止で滑空中のB777(シミュレーター)>
イカロス出版「THE PILOT 2009」誌の取材時に撮影した。
読み取れる対気速度207ノット、降下速度1350ft/minから、
滑空比はざっと16といったところか。
その範囲に手頃な滑走路があれば、無理なく着陸できるだろう。
そこまで、しっかりデモンストレーションしてもらった。
RATやAPUから電力や油圧を得られたのでコントロールもきいた。
フラップやギアを降ろして、着陸速度も普通と同じくらいだった。
もちろん接地後のスラストリバーサーは使えなかったけど(笑)。
ロンドン・ヒースローでの英国航空777の両エンジン停止事故や
ニューヨークJFK離陸後のUSエアウェイズのA320の事故では
神業とか奇跡という言葉があちこちで乱れ飛んでうんざりした。
どちらもパイロットはいい仕事をしたと思うが、それだけのこと。
神だの奇跡だのといいだしたら将来への教訓にはならない。
何度か書いてきたように、僕は神頼みをしない。
できれば自分が乗る飛行機のパイロットにもしてほしくない。
信仰心を持つのはいいけど、お祈りよりまず訓練を重視してほしい。
フェデックスのパイロットは信仰心が足りなくて死んだのだろうか。
信仰心が篤ければ助かっていたのだろうか。まさかね。
たぶん足りなかったのは信仰心ではなく別のものだったと思うけど。
一方でシチリア島沖でのチュニインターのATR42の着水事故。
パイロットは緊急操作ではなくお祈りをしていたということで
禁固10年の有罪判決を受けたそうだ。
カトリックの総本山イタリア(バチカン)のテリトリーで、
アラーの神にお祈りしたのがまずかった…ってことじゃないはず。
神を信じないのが不遜だとか傲慢だとは限らないだろう。
空を飛んでいる人なら誰だって自然の力や怖さは知っている。
旅客機でも戦闘機でもハンググライダーでも熱気球でも。
わざわざ信心深い人に説教されるまでもなく、命がけなんだから。
祈る前にやらなければならないことがたくさんある。
自分の腕に命を託して飛んだことのある人には当り前のことだ。
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