化学兵器よりも不気味
昔、科学雑誌で化学兵器の記事を書いたことがある。
いまの軍隊は対化学戦の装備を整えているから、
正規軍同士の戦いではあまり大きな効果は期待できない。
使うならイラクがクルド人に使ったといわれるように、
市民をターゲットにするのではないかというようなことを書いた。
まさか、後にオウム真理教の毒ガステロが起こるとは思わずに。
地下鉄サリン事件のあと、TV局から電話がかかってきた。
化学兵器について話していただきたいというような依頼だった。
とはいえ僕は毒ガスの専門家でもないしTVも苦手である。
かわりに参考になりそうな資料をいくつか教えてあげた。
話の最後に、TV局の人はこう聞いてきた。
「ところで阿施さん、オウムではないですよね」
人から色々と教えてもらっておいて、それはねえだろ(苦笑)。
まあ、予言みたいな記事書いちゃったから仕方ないけど。
「違いますよ。僕の専門は化学ではなく航空工学です」
「ですよね、ここにもそう書いてあります」
「ここにって、どこになんです?」
相手は答えなかった。今のようなインターネットもない時代だ。
こんなマイナーな人物の情報を、どうやって調べたんだろう。
それが僕には、毒ガスみたいにおっかない話に思えた。
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